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シルク・ドゥ・ソレイユアーティスト 佐藤麻衣×杉山美紗

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ラスベガスのシルク・ドゥ・ソレイユでパフォーマンスしていた佐藤麻衣と杉山美紗も新型コロナウィルスの影響でステージから離れた日々を送っている。世界の一線で活躍してきたパフォーマー達は、今何を考え、どんな取り組みをしているのだろうか?2人が新たに始めたオンラインでの“マインドフルネスムーブメントクラス”。鎧を脱ぎ、本来の自分を知り、満たす事で周囲も幸せになっていく方法をコロナを機に気づかされたと話してくれた。そんな彼女たちから「7つのチャクラ」という作品が送られてきた。ありのままの自分=人を惹きつける姿でステージに立つ、その手助けをしてくれる新しいアプローチにも注目。


 

  • 佐藤 麻衣(Mai Sato)ラスベガス在住の写真家。ダンサー、パフォーマー、サーカスアーティストのヘッドショットから、アーティスティックな写真まで手掛ける。写真家になる前は、10年間、シルク・ドゥ・ソレイユのエアリアルパフォーマーとして活動。また、2009年、2010年と2年連続で、ポールダンス国際大会で優勝。​・シルク・ドゥ・ソレイユ “LOVE” (ラスベガス)
    ・シルク・ドゥ・ソレイユ “Zaia”  (マカオ)
    ・シルク・ドゥ・ソレイユ “ZED” (東京)【過去のインタビュー】
    シルク・ドゥ・ソレイユ『ZED』 ~ ブレない魔法 ~ (2011)
    智子 / 麻衣 / Michiru ~ 美しき空中表現者。 ~ (2010)

 

  • 杉山 美紗(Misa Sugiyama)

    ©Hazuki

    ラスベガスと日本を拠点に、パフォーマー、モデル、ヨガインストラクターとして活動。アーティスティックスイミング(シンクロ)元日本代表として世界大会に出場し、2015年からシルク・ドゥ・ソレイユ”O”に出演。2019 年にアメリカ永住権を取得。2020 年 1 月から“O”との契約を On-call に切り替え、日本とアメリカでの活動を始める。・アーティスティックスイミング日本代表 ワールドカップ、世界選手権
    ・シルク・ドゥ・ソレイユ “O” (ラスベガス)
    ・アーティスティックスイミングコーチ指導(シンガポール、日本)


 

■「この身体は借り物で、いつの日か返さないといけないのかもしれない。」

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Model :
Tiffany De Alba-Chelaru / Haley Rose Viloria / Fernando Miro / Tsvetelina Tabakova / Misa Sugiuama / Benedikt Bence / Marina Boutina
Photographer/Director : Mai Sato
Calligrapher : Ai Kishimoto
Hair and Makeup : Izumi
Fabric designer : Mai Chabira
Assistant Director : Mai Chabira / Misa Sugiuama

TDM:麻衣さんの作品、“7つのチャクラ”はとても素敵ですね。撮る事になった経緯は?

 

麻衣:40歳という節目の今年、ちょうどシルク・ドゥ・ソレイユに所属して10周年なので、自分の誕生日に写真を撮ろうと決めていました。その写真を見た時に、「10年間、この体は本当に頑張ってくれたな」という感謝と同時に、「もしかしたら、誰かに“この体とこの魂で今世を過ごしなさい”と言われたのかもしれない。」「もしかしたら、この身体は借り物で、いつの日か返さないといけないのかもしれない。」という考えが浮かんできました。もしこの身体が授かりものなら、もっと自分を大切にしたいと思い、それをいろんな人に伝えようとこの作品を作りました。

 

自分が大切にしている「在」「悦」「尊」「愛」「語」「観」「悟」という7つのテーマのバランスをとる事で、自分が満たされていきます。パフォーマーがそれぞれのチャクラの意味をベースに、自分を愛し、育てていく方法を表現しているこの写真が、どのように自分を愛し、自分の人生を祝っていくか、思い出させるものになってもらえたら嬉しいです。

 

作品自体はコロナ流行以降に撮影したんですが、以前から勉強していた、マインドフルネスがきっかけです。マインドフルネスというのは、どういう風に過ごす事で生活が満たされるか、どうすれば幸福感を得られるかを考える事です。アメリカで流行っていて、本を読んだりオンライン講義を受けて勉強していました。

 

マインドフルネス:マインドフルネスとは 発生する思考、感情、身体感覚を理解するための意識の安定性を訓練する事。そして、公平な観察と感情的な反応性、受け入れと優しさの態度で快適な、不快な、中立的な経験に応答する事。(Wikipediaより引用)

 

TDM:撮影はどんな感じでしたか?

 

麻衣:撮影中は基本的には美紗ちゃんに集中していて、その人の事だけを考えています。私の自我が無くなり瞑想のような状態になります。ポーズとテーマの指示はしましたが、いかに自然に美紗ちゃんらしくなれるか、美紗ちゃんの感情に集中しています。その時間が相手にも伝わると、人って自分の為に時間を共有される事を心から喜びます。ラブレターみたいなものですね。写真を撮る時、ほとんどの人は構えますが、自分の内側から出てくるものを撮ってあげると本当にきれいな写真が撮れます。

 

観客として舞台を観ている時に、パフォーマーと同じ次元になるというか、舞台と客席の壁が無くなる不思議な感覚になった事があります。そういう時は、きっと舞台に立ってる人が構えてない状態になっている時。それは内側に意識を持っていき自分の事を感じてあげると、見てる人がその人に吸い込まれるんです。その時の、その人のそのままの良さを写真に撮りたいと思っています。

 

美紗さんはこの作品の中の「語」のモデルです。“真実を自分の言葉で話す。愛のあるコミュニケーションをとる”という事がテーマです。台に寝てもらって、布をもう1人が何度も投げて、シャッター前にさっと隠れてました(笑)。

 

美紗: 今回の作品は“借り物の身体”を見せる為にヌードという事で、麻衣さんも気を使ってくれて、全部は脱がなくてもいいと仰っていたのですが、もっと良い作品にしたいという思いから、私から「取ります」と言いました。もともと私は麻衣さんの写真の大ファンで、アートとしての肉体美を本当に綺麗に撮ってくれるという信頼がありましたし、芸術として、脱ぐ事に抵抗はなかったです。

以前、砂漠で撮影してもらった時、自分を良く見せようとは思わず「あー風が気持ちい」と思って、ただ立っていた時の 写真がとても良かったんです。逆に、「足をどう上げたら美しいかな」と考えながら撮られた写真はイマイチ。ただそこに 在るだけの写真の方が気に入りました。今思うと、先ほど麻衣さんが言っていたありのままの自分になっていたなと思います。

 

■まず、自分を愛する事「マインドフルネス」

 

TDM:コロナによってどんな影響がありましたか?

 

麻衣:マインドフルネスを学んできた事が生かされてきたおかげで、私はコロナ禍による心の変動がそんなにありませんでした。

 

一番学んだ事は、“自分を満たす事からすべては始まる”という事。自分を大切にすればするほど、いい影響が広がって、周りの人の生活も自然と良くなっていくんです。「シャンパンタワーの法則」とも言われていて、一番上のグラスが自分で、自分が満たされていくと家族に広がり、その下の身近な人、そして社会という順に広がるという考えがあります。私は、今まではこの逆で、まず周囲を大切にして自分の事は後回しにしていました。でも、マインドフルネスを学んで、自分を満たす事がスタートだと実感し、それを周りに伝えたいと考えました。

仕事が全部無くなって、これから何を選ぼうかと思った時に好きな事を選ぼうとしてる自分がいます。この10年間、年間約460回、合計4500回以上のショーに出演して、何もせずただぼーっと考える時間がなかったんですが、コロナによってそういう時間が持てた事で、一個一個大切に意味を持ってやっていこうと思えました。

 

10年間を振り返った時に、それなりにすごい事を達成してきてるのに、その時には何も感じていませんでした。Beatles 50周年のショーというとても貴重なショーに出た事があるんですが、オーディエンスはAlicia KeysやStevie Wonderなど有名なミュージシャンたちの前だったのに、その時はすごさに気づけず、終わっても「はい、明日の仕事、仕事。」と流している自分がいました。

 

120%のパフォーマンスはしたし、緊張もしてたんですが、楽しんではいなかったですね。今思うと、マインドフルではなく、あの状況を味わう余裕がなかった。完璧主義なので、この10年間は毎日ベストを尽くそうと頑張りすぎていたなと思います。でも、コロナを機に頑張れる事がなくなったら、今を生きる大切さや「一生懸命なのもいいけど、完璧じゃなくてもいいからちゃんと楽しもう」と、自分に優しくなりました。その方がいい方向に進むし、同じ事をやっててもどう感じるかで幸せ感が変わってきます。

 

今まで表舞台に立っていましたが、今思うと、「せっかく出来るんだからやらないと損でしょ、出来るなら行く所まで行け」というエゴでした。でも、本当に私の心が満たされるのは人と繋がる事。パフォーマンスで人と繋がれる人もいると思うんですが、私はうまく出来ないんです。でも、写真を撮ると確実にその人の美しさを伝えられる。言葉を並べても鏡を見せても伝わらないのに、写真を撮って見せると「ほらね!」と一瞬で伝わる。写真ってすごいんです(笑)。今回美沙さんと立ち上げたマインドフルネスのクラスは、写真を撮る時にリラックスしてもらうのも目的で、その時のその人のそのままの良さを写真に撮りたいと思って考えたクラスでもあります。

 

TDM:麻衣さんはいつも笑顔で朗らかな印象なので、完璧主義と聞いて見た目とのギャップを感じました。完璧を求め努力する大変な日々を送ってきていたんですね。

 

麻衣:私から感じてくださる朗らかさは、私は他人を愛するのが得意だからだと思います。だけど、自分を愛せない。自分を許す事が難しいから、先ほどの順番からすると、自分を許す事から始めなきゃいけないんです。マインドフルネスを通じて、「何で自分には厳しいんだろう」と考えるようになり、何か上手くいかない時や周りの人がイライラしてる時には、まず自分を振り返ります。そういう時は自分が満たされていない時が多いんです。「私は今、何を無視してるんだろう」と考えて、休みたいのか、美味しいものを食べたいのか…その欲してるものをちゃんと聞いて満たしてあげると、物事がスムーズに進むなと実感しています。自分を丁寧に扱ってあげる事が大切ですね。自分をテイクケアできるようになるまで、他人を助けることはできません。愛する/テイクケアをする方法は、「自分」「自分が好きな人(like)」「好きでも嫌いでもない人(neutral)」「愛する人(love)」「自分を苦しめる人」という順で学んでいくことがベストらしいです。

 

念願だったシルク・ドゥ・ソレイユの喜びが2ヶ月しか続かない

 

TDM:美紗さんはシルク・ドゥ・ソレイユのシンクロスイマーとして活躍され、今回マインドフルネスのヨガクラスを担当されるそうですが、ヨガと出会ったきっかけはなんですか?

 

美紗:私も麻衣さんと同じで、夢を達成したとしても、上には上がいるので、そちらばかり見てしまって、自分を認めてあげられませんでした。シルク・ドゥ・ソレイユにはすごい人たちしかいなくて、自分と他人を比較してしまうといつまで経っ ても満たされない状態。終わりがないんです。

シルク・ドゥ・ソレイユの舞台に立つ事が14 歳からの夢で、それが叶った時は喜びましたが、2ヶ月後には「次の目標は何?どうしたらいいの?」となってしまいました。なんとか次の目標を決めて一生懸命 努力して、達成しても満たされない…そのエンドレスな流れに疲れてしまい、眠れなくなった時期がありました。

 

そんな時にヨガに出会い、呼吸法などを取り入れる事で眠れるようになりました。そして、コロナを機に泳ぐ理由が無く なり「泳ぐ事を一旦辞めてみよう。」と思いました。自粛中はヨガだけをやって、1 人の人、女性として普通の生活を楽し んでいました。ただ、その中でも、少しだけ物足りなさも感じていて…その頃、今回の 7 つのチャクラのお話を頂きまし た。撮影時には「やっぱり私はアーティスティックな表現もやりたい」と、表現する事からしばらく離れていたからこそ 改めて気づかせてもらえました。

©Hazuki

ダンスは楽しいですが、体を酷使していますよね。ヨガはヘルス、ウェルネスの観点なので、体に無理がない。ヨガは自分の身体の声を聴いてあげる事が出来るので、自分とのコミュニケーションの時間にもなっています。もちろんヨガでなくても、自分がヘルシーでハッピーで、自分軸で生きる事が出来ていたら、方法は何でもいいと思います。

 

麻衣さんのマインドフルムーブメントのクラスを受けた時、「美紗ちゃんここが苦手だよね」「こうすると綺麗だよ」と自分では気づけないたくさんの発見がありました。あのクラスを学び続けるたら、自分で自然体になれる感覚が掴めると思 います。

 

麻衣:その感覚を意識的にコントロール出来る方法があるので、それを教えるのがマインドフルネスのムーブメントクラスです。人は、誰もが生まれた時は裸のままなんですが、生きていく中で、毎日少しずつ鎧をかぶせていきます。鎧は厚ければ厚いほど人と繋がれないから、鎧を一つずつ脱いでいく作業です。

赤ん坊の状態になった時の瞬間が一番美しいと思っているので、それをスキルとして教えてあげる事で舞台に立ったり写真に撮られる時に美しくなれるし、人と繋がる事が出来ます。それは内側に意識を持っていき自分の事を感じてあげると、見てる人がその人に吸い込まれるんです。その時の、その人のそのままの良さを写真に撮りたいと思って考えたクラスでもあります。

 

TDM:時には嘘をついたり、相手を傷つけたり…鎧を付けないと戦えない人は多いかもしれませんね。

 

麻衣:相手に対する恐怖心から自分を守ろうとしてそういう行為をしてしまう、それは自然な事だと思います。相手への恐怖心で鎧を身に着けたくなるけど、鎧を重ねる事で、結局本人が辛くなる。でも、その感情を何に変換出来るかによって、本人が苦しくなるかならないかが分かれます。私の場合は、怒りや恐怖心に対しては、まず自分を守ろうという危険信号なので「ありがとう」と思うようにしています。次に、本当に危険かどうか考え、危険でなければ「考えすぎだったね」で終わり、危険であれば対処の仕方を考える。自分が苦しい時間が多くなるともったいない。自分で自分を満たせてあげないと正しい判断が出来ないから、相手を傷つけてしまう。自分の声聞いてあげて、本当に欲してる物を与えてあげると、すべてがうまくいく。アメリカに来てから気づいたそのマインドの作り方をこれから広めていきたいです。

 

TDM:最後に、今後の目標は?

 

美紗:私は、先ほど話したようにもっと表現をしたい事に気づいたので、自分のスペシャリティを活かせる写真や映像などのパフォーマンスに関わっていきたいと思っています。また、麻衣さんと共にマインドフルムーブメントのヨガクラスをやらせてもらうのでそれも頑張りたいです。

 

麻衣:私は7つのチャクラのような写真による作品作りや、マインドフルネスのクラスを充実させていきたいです。今は、コロナの影響でオンラインクラスのみですが、どなたでもどこからでも参加出来ますので、ぜひお気軽にご参加ください!

 

TDM:今日はありがとうございました!

 

<マインドフルネスクラスの公式サイト>

https://www.maisatophotography.com/mindfulmovement

 

interview by AKIKO
edit by imu
’21/01/07  UPDATE

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tokyodancemagazine

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